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欧米中の為替切り下げ競争に直面する日本
同志社大学教授 田淵 太一
この夏の猛暑とともに、円高が止まらない。9月3日現在の相場は一ドル=84円台前半であるが、このまま事態が推移すれば、1995年4月に記録した一ドル=79円75銭という史上最高値を年内に更新する可能性が高い。
輸出依存度が依然として高い日本の巨大企業は悲鳴をあげている。たとえばトヨタは、対ドルで円相場が1円円高に振れると営業利益が300億円も減少する。しかも同社の今期の想定レートは一ドル=90円であるからことは深刻である。ここ十数年にわたり財界が国内の賃金・雇用を切り捨て、国内市場を軽視したツケを支払わされているのである。
基底的な要因は、日本のデフレから生じる海外との実質金利(名目金利からインフレ率を引いた値)の格差である。日米の短期金利はほぼ0%で等しいものの、米国のインフレ率が約2%であるのにたいして、デフレに直面する日本はマイナス1.5%であり、両者の実質金利はマイナス2%とプラス1.5%で、3.5%もの開きがある。この状況ではドルが売られ、円が買われる。そのうえ米国FRB(連邦準備理事会)は、今年3月にいったん終了していた量的緩和政策を、この8月10日に再開した。これによってさらに大量のドルが市場に供給され、長期金利も低下してドルが売られやすくなった。FRBの今回の買い取り対象は長期米国債である。背景には米国債の売れ行き悪化とドル信認の失墜があるみてよい。
欧州に目を転じると、ギリシャ危機が激化し、南欧に波及してユーロそのものの危機すら懸念された今年5月9日、EU(欧州連合)財務相会議は市場の予測をはるかに上回る7500億ユーロという大規模な救済融資枠(ユーロ防衛基金)の設立を決定した。これを契機にユーロ周縁国を標的にした投機筋の攻撃は小康状態となっている。結果的に実現したユーロ安水準は輸出増加による景気回復を狙うドイツなどユーロ中心国にとって好都合である。
中国は昨年まで巨額の米国債を買っていたが、今年に入って売りに転じ、かわりに日本国債を購入している。それにより元の価値を安定させている。
こうして、円は対ドルのみならず、主要通貨にたいして空前の独歩高である。経済学者のあいだでは「実質実効為替レート」(主要貿易相手国通貨にたいする円の総合的価値を表す「実効為替レート」から物価変動の影響を除いたもの)でみれば1995年の「超円高」に比べて現在の水準のほうが3割以上「円安」なので心配ないとの見方が根強いが、机上の空論である。円は対ドルばかりでなく、対主要国通貨全般で上昇している(名目実効為替レートは「超円高」時を超えて史上最高水準である)。「実質実効為替レート」でみれば「円安」だとする議論は、日本の名目GDP(国内総生産)が20年ものあいだ500兆円のままなのに物価が下がっているから「実質」GDPは成長しているという議論と同様、まやかしである。
ではどうすればよいのか。
欧米と中国は為替切り下げ競争に踏み切っていると言ってよい。こうしたなか、巷間叫ばれる円売りドル買い介入実施は下策である。協調介入など主要国から相手にされないだろうし、日本の単独介入では効果が限られる。米国の実体経済(失業率、不動産市況)は今後さらに悪化し、秋から冬にかけて金融危機再燃が懸念される。その過程で米国債ひいては米ドルの信認が失墜してゆく可能性が高いことを考えれば、日本だけがドル買い介入(つまり米国債買い入れ)を行なうことはきわめて危険である。
根本は国内のデフレ解消である。日銀による量的緩和が無意味であることはこの10年の経験で実証済みである。デフレは主流の経済学者が主張するような貨幣的現象ではない。これは「賃金デフレ」であり、財界と政府が進めた賃金と雇用の融解から生じている。労働者の交渉力を高め、日本経済を底上げすることからしかデフレは解消しない。
注:本稿は、機関紙コモンズ第27号に寄稿されたものを、本人承諾の上再度発表しているものです。(事務局)
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