■広範な国民連合(全国)
 ・活動(速報)
 ・月刊「日本の進路」
 ・「日本の進路」地方議員版

 ・結成にいたる経過
 ・憲章
 ・めざす進路
 ・役員


■広範な国民連合・京都
 ・情勢と方針
 ・賛同の呼びかけ
 ・会員の意見・投稿
 ・バックナンバー
 ・役員
 ・規約
 ・サイト開設にあたって

広範な国民連合・大阪


広範な国民連合・北海道

■意見・投稿先
kokuminrengo.kyoto [a] gmail.com
([a]をアットマークに変えて送信して下さい)


[論評]「米欧経済の破局と日本(1)」

 平成23年5月31日
株式会社京都総合研究所
佐々木道博

 7月末より、アメリカ議会において国債発行上限の改定をめぐり民主共和両党の合意が成立し、債務不履行(デフォルト)の危機を一旦回避した。しかし、アメリカ国債は格付け会社S&Pから格付けの一段下げを宣告された。これを契機にアメリカ経済への投資家の不安からその後1か月毎日のように100ドルから500ドルの範囲で株価は乱降下を繰り返している。そして欧州株も年初来安値をつけ、ドイツ株に至っては今年すでに30%以上下落している。ギリシャの国際の利回りは9月6日に19%を超え、ほとんど価値を成さないほど急落している。イタリアやスペインにまで金融危機は波及している。本稿では米欧の経済政治危機について論じてみたい。

 リーマンショック以降、アメリカ経済はどうなっているのか。

 2008年9月のリーマンショックから既に3年が経過するが、事の起こりは前年の7月から始まったサブプライムローンの破綻危機である。

 1990年以前は金融資産と世界のGDPは、ほぼ同様に均衡していたが、90年ソ連崩壊の冷戦終結以降は、米・欧は金融を経済成長の原動力とし、2010年時点で世界のGDPは63兆ドル、そして金融資産は212兆ドル(マッキンゼー推定)日本円で1.6京円と残高になっている。

 経済成長の主役を次々と登場させ、2000年のITバブルそして2005年からはブッシュ政権の持ち家政策と金融緩和、住宅ローンを含む各種の証券化とレバレッジ(元金3%〜8%で最大12〜30倍まで貸し付ける)によって資産拡大をはかってきた。

 ゆるゆるバブルの転がしによって、金融機関は莫大な利益を稼いできた。その資産は借金によってつくられたものであるから,不動産や株、商品が3〜8%下落すれば元金はふっとんでゼロになるという構造である。ゼロならまだしもバブルが逆回転し、膨大な不良債権となって金融機関投資家に襲い掛かってきた。

 これがリーマンショックであり世界の金融危機である。

 こうした金融危機に対してアメリカではどう対応してきたか見ておこう。金融機関、特に、投資銀行に対しては、国有化などの手段を使って公的資金を大量に投入し、また極端な金融収縮(貸し渋り)に対してゼロ金利政策、需要不足に対して財政投入、公共事業の拡大等々、あらゆる政策を駆使し、危機回避に動いてきた。この4年間で新規国際発行約5兆ドル、新ドル増刷5兆ドル、フレディマック、ファーメイなどの住宅ローン保証会社等に対する政府保証約5兆ドルを投入し、民間の損失を政府が肩代わりしてきた。アメリカGDPが14兆ドルといわれているが、その一年分の資金を3年間で投入したことになる。アメリカの税収は日本円で100兆円も割り込んでいるので、国家予算の10年分を投入したことになる。アメリカ国債が、いままでAAAの最上級に位置づけられること自体異常であったのである、基軸通貨国の恩恵を最大限に利用して世界中でやりたい放題をやっていたのである。

 今、アメリカはQE3(金融緩和策)の是非を論議しているが、これをやれば一層ドル安と世界にインフレをばらまくことになり、またやらなければ雇用は一層深化し、景気悪化は避けられない。前にも後にも行けない状態が今のアメリカである。

 翻って、この経済情勢がアメリカ社会にどんな影響を与えているのか。興味深いレポートがウォールストリートジャーナルに日本人ジャーナリストの肥田美代子氏がレポート記事を載せている。その一部を紹介しておきたい。その記事のテーマは「消えゆくアメリカンドリームー加速する“超格差”の実態」8月19日である。

 一部引用すると「ニューヨークに本拠を置く世界最大の会計事務所デロイドが今後10年に亘る世界の富の成長を予測した調査結果(5月発表)によれば世界25か国地域の富豪が所有する92.26兆ドルのうち、38.6兆ドルを米国の大富豪がしめる」「また、上記の38.6兆ドルに加えて、タックスヘイブン(租税回避分)の資産6.3兆ドルが上積みされ、アメリカがトップ0.1%、約30万人が46兆ドルを持っている。)計算で日本円に換算すると一人100億円以上となる。米国個人資産のほとんどをこうした1000人に一人の富豪たちが独占しているということである。

 一方、このレポートでは「翻って米国の中間層や低所得層の苦境ぶりは鮮明だ。米民間世論調査期間ビュー・リサーチセンターが、7月26日に発表した調査結果では、米国の全世帯の2割にあたる約6200万人が2009年時点で資産がゼロか負債を抱えていることが明らかになった。(05年は15%)」と述べている。それに続いて「また、フードスタンプ(低所得者向けの食糧配給券)受給者も依然として増え続けており、今年5月時点での受給者数は全米で約4580万人と前年同期比で12.1%増を記録した。ニューヨーク州では約302万人が、政府の援助なしには食事も事欠く状況だ。わずか6年前には全米で2570万人しか助けを必要としなかったことを考えると、貧困化が急ピッチで進んでいることがわかる」「8月2日に成立した財政赤字削減策の下で社会保障がカットされると貧困率(09年時点14.3%)が倍になるという調査結果も出ている」ここまで肥田美代子氏のレポートを引用してきたが、これに加えて本年9月初め失業率は9.1%(求職活動をしている人)そして求職活動をあきらめたほんとうの失業者7%を加えると16%以上(約2400万人)の人が職につけていない状況である。

 今後、オバマ政権と共和党の合意の下、財政削減策が強化されると一層の貧困化が進むが 同時に、全国民の0.1%の30万人は、富を独占しているが、この富さえも国家破綻、ドル崩壊と共に自らの富を失うことに大変な恐怖を抱いているのである。アメリカの高所得者番付3位のウォーレン、バフェットが高所得者への増税の主張をしはじめているのも、こうした意識の表れであろう。このままでは国家がもたないところまで来ているという事である。

 アメリカ社会はこうした経済的背景の中で、人口3億人の国に2億7千万丁の銃があふれ、年間20万人の死傷者で出ており、そのうち3万人以上が毎年死亡している。朝鮮戦争でも3年間で3.7万人、ベトナム戦争でも10年間で5万人の死亡者であったことを考えれば、イラク・アフガン戦争という外での戦争より国内戦の銃の死亡者の方が圧倒的に多いという事である。また、この国内戦以外にメキシコ国境では麻薬の密売摘発のため、アメリカ警察とメキシコ警察がマフィアと戦争状態で、この3年間で3万4000人が死亡したと報道されている。アメリカンドリームはすでになく、多くの国民は職に就けず、中間層は住宅ローンが払えず、差し押さえの恐怖におびえ、街へ出ると銃撃戦に巻き込まれるリスクを避けるために神経を使っている、きわめて不安定で病んだ社会になってしまったのである。アメリカ政府がしばしば他国の人権問題に介入し、批判もしているが、まず自国の人権状況を点検してみることが先決であろう。

 ここまでアメリカの現状について論じてきたが、ヨーロッパも同様の危機の中にある。この9月初め、ヨーロッパ中央銀行(ECB)の理事会メンバーであるベルギー中銀のクーン総裁は「欧州における流動性とコンフィデンスの問題はリーマン破綻後ほど深刻ではないが、その方向性にむかっているとの認識」(9月2日ロイター通信)と述べている。そして、その4日後9月5日にはギリシャ国債の利回りが19%に跳ね上がり(日本国債は1%)破綻状況になった。そして、その日独の株価指数DAXは5%以上下がっている。他の欧州株も軒並み下げている。独株式は年初より30%以上の下げ幅である。仏も英、伊、スペインも同様である。EU全体でなんとか危機に対処しようとしているが、独、仏だけでは到底支えきれない様相である。

 また、独自のポンドを有するイギリスも、GDP200兆円の国が、国と民間の負債が800兆円にも達し、どうにもならなくなっている。先日、国内暴動で3300人を上回る逮捕者を出したのもこうした背景からである。

 ヨーロッパはこうした経済危機の中で仏を中心にリビアの反政府勢力をそそのかし、石油資源の強奪も狙ってカダフィに戦争を仕掛けた。こうした目論見もイラク・アフガンの状況をみてもわかるとおり、長続きするわけでもなく、自らの危機を深めるだけである。一時的に仏、サルコジの支持率を高めても逆に大きな荷物を負ったことになるであろう。

 中東、アフリカは今、大動乱の中にある。アメリカやヨーロッパの支配もタガがゆるみ、各地でデモや暴動が相次いでいる。イスラエルでも物価高や政府の経済政策に反対して45万人の大規模なデモが発生している。イスラエル建国以来の出来事となっている。

 これまで見てきたように、経済危機は深刻化し、破局の様相を見せている。1929年ブラックマンデー世界大恐慌の時もその後数年間は財政出動(ニューディール政策)などによって一旦小康状態を見たが、4年後1933年から世界は本格的恐慌と市場分割戦に入っていた。1933年ドイツではナチスが政権を握り、日本は満州国(カイライ政権)建国に意を唱えるリットン調査団の調査報告書を認めないと宣言し、この年1933年に国際連盟を脱退した。そして各国は戦争への道へ突き進んだのである。現在は、当時と比べて、反帝国主義と自立を求める世界各国人民の力が強大になったため、今回のこの事態が世界大戦へ突入するという単純な歴史のアナロジーはできない。しかし、欧・米は素直に自滅の道を歩むわけでなくあれこれの生き残り策を弄して、これから1〜2年どういう事態が起こるか、予測は難しいが、只、言えることは欧米の帝国主義の時代は確実に終わりを迎えざるを得ないことは確かなようである。

 次の論考では、中国を始めとするアジア経済、そして、こうした情勢の中で大震災と原発事故に直面し、円高、不況、空洞化等々に如何に対処するのか、私なりの考えを述べてみたいと思う。(以下次号。


<自主・平和・民主のための広範な国民連合・京都 連絡先>
605-0846 京都市東山区五条橋東2-18-1五建ビル3F 京都総合研究所内
メール:kokuminrengo.kyoto [a] gmail.com
([a]をアットマークに変えて送信して下さい)